その旅館の紹介文、隣の旅館の紹介文と入れ替えても、誰も気づかないのではないでしょうか。
あなたも、ChatGPTに「うちの旅館(お店・会社)のLPを書いてください」と頼んだことがあるのではないでしょうか。
出てきた文章は、たしかに整っています。誤字もないし、失礼な言い回しもありません。でも、読み返してみると、なんとなく物足りない気持ちになりませんか。
そうです、その感覚、正しいです。実は、ちゃんと理由があります。
証明写真とスナップ写真、何が違うと思いますか?
少し想像してみてください。あなたの手元に2枚の写真があります。1枚は運転免許証の証明写真、もう1枚は友人が撮ってくれた、笑っているスナップ写真です。
どちらが「その人らしい」と感じますか。ほとんどの人が、スナップ写真だと答えるでしょう。
写っている情報量は、実はそれほど変わりません。顔、髪型、服装。要素はほぼ同じです。違うのは、「その人にしかない一瞬」が写っているかどうかです。
ChatGPTに「LPを書いて」とだけ頼むと、出てくるのは証明写真のような文章です。整っていて、間違いもない。でも、その人(会社)にしかない一瞬が、どこにも写っていません。
なぜだと思いますか。実は、ChatGPTがサボっているわけではありません。ChatGPTは、あなたの会社の「その一瞬」を、そもそも知らないだけなのです。
「創業70年」だけでは、何も伝わらない
架空の例で考えてみましょう。尾道にある、三代続く小さな老舗旅館「潮待ち旅館」があるとします。客室は8室、家族で営む旅館です。
主人に「この宿の強みは?」と聞くと、こう答えるはずです。
・創業から長く営業している ・瀬戸内の魚を使った料理を出している ・家族で丁寧に接客している
どれも間違いではありません。でも、「創業70年」と書くだけで、宿泊客はその宿に泊まりたくなると思いますか。
実は、なりません。数字だけでは、何も想像できないからです。
そこで、「創業70年」をもう一段、掘り下げてみます。
・玄関の引き戸は、創業当時のものを修理しながら使っている ・廊下を歩くと、古い木の床が少し鳴る ・客室の窓から、尾道水道を行き交う船が見える ・朝になると、対岸へ向かう渡船の音が聞こえる
ここまで掘ると、文章はこう変わります。
朝、障子を開けると、尾道水道を渡る船が見えます。廊下を歩けば、長い年月を重ねた木の床が小さく鳴ります。
これが、スナップ写真の1枚です。LPで必要なのは、特徴の説明ではなく、体験の予告なのです。
料理も、「新鮮」「自慢」で撮っていませんか?
料理も同じです。「瀬戸内の新鮮な魚介類を使った、料理長自慢の会席料理」——間違ってはいませんが、これも証明写真です。「新鮮」「自慢」は、どの旅館も使う言葉だからです。
では、どうすればスナップ写真に変わると思いますか。実は、修飾語ではなく、仕入れや調理の実態を聞くだけです。
・料理に使う魚は、決まった魚種ではなく、その日の仕入れで変わる ・見栄えの豪華さより、魚に合う調理方法を選ぶ ・連泊客には、前日と料理が重ならないようにしている
文章にすると、こうなります。
夕食には、決まった献立がありません。その日に入った魚を見て、焼くのか、煮るのか、刺身にするのかを決めます。
**「新鮮」「自慢」を、「その日の仕入れで決める」という行動に変える。**証明写真をスナップ写真に変える作業と、まったく同じです。
「おもてなし」も、行動で撮り直せますか?
「心を込めたおもてなし」も同じ穴に落ちやすい言葉です。これだけでは、何をしてもらえるのか分かりません。
・大きな観光地だけでなく、朝に歩きやすい路地を教えてくれる ・雨の日には、無理に観光地を回らない過ごし方を提案する ・一人旅の宿泊客には、必要以上に話しかけない
文章にすると、こうなります。
「朝はどの道を歩くと静かですか」。その日の天気や滞在時間を聞きながら、私たちが実際に歩いている尾道をご案内します。
「心を込めておもてなしします」と書くより、接客の距離感まで伝わります。ここまでくると、旅館の輪郭がだんだん見えてきませんか。
不便な点は、隠したほうがいいと思いますか?
老舗旅館には、新しいホテルにはない不便さもあります。エレベーターがない。防音は現代のホテルほど高くない。
こうした情報、隠したほうが予約は増えると思いますか。実は、逆です。隠して予約を取れば、宿泊後の不満に変わります。
かといって、必要以上に謝る書き方をすると、今度は魅力まで弱く見えてしまいます。大切なのは、できないことを隠すのではなく、「どんな人に向いた宿か」をはっきりさせることです。
設備の整った新しいホテルをお探しの方には、ご不便をおかけするかもしれません。一方で、尾道の町に暮らすような滞在を楽しみたい方には、気に入っていただける宿だと思います。
不便を含めて楽しめる人に来てもらうための文章です。ごまかしではありません。
「うちは旅館じゃないから関係ない」と思いましたか?
ここまで読んで、そう思いませんでしたか。実は、業種は関係ありません。
製造業なら「品質管理を徹底」を、「出荷前に検査担当者が全数を目視で確認し、傷が一つでもあれば出荷を止めている」まで掘り下げられます。建設業なら「丁寧な施工」を、「完成後は見えなくなる部分も、施主にすべて写真で共有している」まで掘り下げられます。
業種が違っても、やることは1つです。抽象語の裏にある、具体的な行動を1つ探すこと。これだけです。
あなたの会社にも、証明写真のままになっている「当たり前」が、必ず1つはあるはずです。今、1つ思い浮かびましたか。
全員に向けて書くと、どうなると思いますか?
LPを作るとき、「尾道を訪れる観光客」のような広い対象を設定したくなります。でも、それをやると、どうなると思いますか。
実は、誰にも強く届かない文章になります。
家族旅行、一人旅、サイクリング。観光客と言っても目的はさまざまです。そこで今回は、こんな1人を思い浮かべます。
50代の夫婦。子どもが独立し、久しぶりに二人で旅行する。豪華なホテルより、土地の雰囲気を感じられる小さな宿が好き。
ここまで絞ると、書くべきことが見えてきます。「静かに過ごせるか」「食事は落ち着いて食べられるか」「階段はどの程度あるか」。1人の顔が見える文章は、似た価値観を持つ、もっと多くの人にも届きます。
あなたの会社のLPも同じです。読者を「見てくれそうな人みんな」に設定していませんか。
ChatGPTに、いきなり書かせていいと思いますか?
ここまでの話を踏まえると、ChatGPTの使い方も見えてきます。
いきなり「LPを書いて」と頼んで、良い文章が出てくると思いますか。実は、出てきません。まず頼むべきは、書くことではなく、聞き出すことです。
こんな指示を出してみてください。
私に一問ずつ質問しながら、建物や設備の特徴、お客様から褒められる点、反対に不便だと言われやすい点を引き出してください。一度に質問を並べず、一問ずつ質問してください。私の回答が抽象的な場合は、具体例を尋ねてください。
「丁寧な対応」「アットホーム」といった言葉が出てきたら、こう続けます。
この言葉を、意味が伝わる具体的な場面に変えてください。ただし、意味を勝手に作らず、確認すべき質問を先に挙げてください。
**意味を勝手に作らせず、確認させてから文章にする。**この順番が肝心です。そりゃそうですよね、証明写真をスナップ写真に変えるには、まずシャッターチャンスを探さないといけませんから(笑)。
完成した文章、そのままAIエージェントに丸投げしていいと思いますか?
文章と構成が固まったら、Claude CodeやCodexのようなAIエージェントに、ページ制作を頼むこともできるでしょう。「おしゃれなLPを作って」とだけ頼んだら、うまくいくと思いますか。
実は、うまくいきません。曖昧な指示には、曖昧な成果物しか返ってきません。
依頼するときは、目的、想定読者、デザインの方向性に加えて、「触ってはいけない範囲」までセットで伝えてください。
提供した文章を勝手に短縮しない。事実にない誇張表現を追加しない。弱み・注意事項を目立たない位置へ移動しない。
せっかくスナップ写真に撮り直した言葉が、AIエージェントの手で証明写真に戻されてしまいます。
そして、ページが完成しても、そこで安心してはいけません。事実と違う文章がないか、写真と説明が一致しているか、料金や連絡先は正しいか。ここだけは、必ず人間の目で確認してください。
終わりに
ChatGPTは、あなたの会社にない魅力を作ってくれる道具ではありません。
毎朝作っている味噌汁。古い廊下の音。窓から見える渡船。長年使い続けている建具。こうしたものは、会社の側から見れば、わざわざ説明するほどのことではないかもしれません。でも、初めてその会社を知る人にとっては、選ぶ理由になります。
証明写真のような文章は、誰の記憶にも残りません。あなたの会社にしかない一瞬を、1つずつ言葉にしていけば、きっとスナップ写真のような、その会社らしいLPに変わっていくことでしょう。
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