目次
Show / Hide

あなたも、AIに経営の相談を投げかけてみたのに、当たり障りのない一般論しか返ってこなくて、がっかりした経験はありませんか。
一度そう感じて、それきりAIを開かなくなった、という方もいるのではないでしょうか。

思い当たるフシがある方に、まず言っておきたいことがあります。
それは、AIの性能が足りなかったわけではない、ということです。足りなかったのは、たった一つ、「問いの順番」でした。

なぜ同じAIでも「使いこなす人」と「失望する人」に分かれるのか

ChatGPTなどのAIを触ったことがある経営者は、もう珍しくありません。けれど、使いこなせている人と、失望して離れていく人にはっきり分かれます。

この差を生んでいる原因は、だいたい次の3つに絞られるようです。

  • AIに「答え」を一言で求めてしまう
  • 具体的な状況を渡さずに、丸投げしてしまう
  • 最初に返ってきた一言だけで、AIの実力を判断してしまう

「経営改善のアイデアをください」と一言だけ投げて、誰にでも当てはまる一般論が返ってくれば、そりゃそうですよね、とがっかりもしたくなります。出ました、厳しい言葉。でも思い当たりませんか(笑)。あなたのためを思って書いていますので、少しだけお付き合いください。

ここで考えたいのは、「AIが役に立たなかった」のか、「AIに答えを求めていた」のか、という違いです。
一問一答で正解を求める使い方と、考えを打ち返してもらいながら頭を整理していく使い方とでは、同じAIでもまったく別の道具になります。

使いこなす人と失望する人を分けているのは、才能でも専門知識でもなく、この入り口の違いだけなのです。

誰もいなくなった夜の事務所で、一人の経営者がスマートフォンを両手で持ち、画面の光に照らされながら考え込んでいる。デスクには書類が積まれ、窓の外は暗い。

壁打ち相手としてのAI

AIは、答えを出す道具ではありません。

こちらが投げた考えを打ち返し、自分の頭の中を整理させてくれる「壁打ち相手」だと捉えると、使い方が変わってきます。

壁打ちは、打ち返してもらうことはできても、最終的にどう打つかを決めるのは自分です。AIも同じで、選択肢や問いを返してはくれますが、経営判断そのものを代わりに行ってくれるわけではありません。

この壁打ちには、誰でも再現できる型があります。特別なプロンプト技術は必要ありません。必要なのは、たった一つ、順番だけです。順番さえ押さえれば、今夜からでも試せます。

  • 型その1:状況を打ち明ける

最初にやることは、状況をそのままAIに打ち明けることです。

仮に、ある小さな製造業の社長が、誰もいなくなった事務所で、新規事業を畳むべきかどうか一人で考え込んでいたとします。相談する相手を探していたわけではありません。ただ、この違和感を言葉にして出したかった。

そこでスマートフォンを開き、AIに向かって次のように打ち込みました。

「新規事業の撤退を検討しています。理由は、投資回収の見込みが当初計画より大きく後ろ倒しになっていることです。迷っているのは、ここで畳めば担当している社員2名の異動先を今から探さなければならない一方、続ければ来期の資金繰りに響くという点です。今月末の取締役会までに、方向性だけでも固めておきたいと思っています。」

打ち明ける際に含めておきたいのは、次の3つです。

・今の状況(何が起きているか)
・迷っている理由(何と何を天秤にかけているか)
・判断の期限(いつまでに決めたいか)

この3つが揃っていなくても構いません。整理してから伝えようとせず、最初の一歩は「言葉にして出す」ことに徹します。この時点で、AIはまだ何も決めていません。

  • 型その2:打ち返しに答える

状況を打ち明けると、AIは問いを返してきます。

先ほどの相談に対しては、「撤退の判断基準を、数字と期日でそれぞれ一つずつ挙げるとしたら何ですか」「撤退した場合、異動する社員2名のスキルは、社内の他部署でどう活かせそうですか」といった問いが返ってきました。

ここで求められているのは、正解を答えることではありません。自分の中でまだ言葉になっていなかった考えを、一つずつ言葉にしていく作業です。

返ってくる問いの質は、こちらが渡した情報の具体性に比例します。一文だけ投げれば、一般論しか返ってきません。

ところが、先ほどの社長のように数字や期日を含めて打ち明けると、AIは「その数字はいつの時点のものか」「異動先の候補は社内に何部署あるか」と、踏み込んだ問いを返してきます。

的外れだと感じたら、答える前に「その質問をする理由は」と聞き返してみるのも一つの手です。情報を足すほど、返ってくる問いも具体的になっていく、それだけの仕組みです。

答えを言葉にしているのはあなた自身であり、AIはまだ何も決めていません。

  • 型その3:自分の言葉で整理する

やり取りを何度か往復すると選択肢や論点が出てきますが、最後の型は、それをAI任せにせず自分の言葉で書き出し直すことです。最終的に判断するのは、AIではなくあなたなのですから。

先ほどの社長は、こう書き出しました。

「結局、撤退の判断基準は、来期の資金繰りに耐えられるかどうかの一点だ。迷っているのは異動先の確保だった。まず異動先の候補を今週中に洗い出し、それが見つかってから撤退の可否を決める。」

AIの問いを踏み台に、最後は自分の口で言い直す。ここがこの型の核心です。

自分の言葉で整理できているかどうかは、次の点で確かめられます。

・AIの画面を閉じても、判断基準を人に説明できるか
・「なぜそう判断したのか」を、他人の言葉を借りずに言えるか
・決めていないことと、決めたことの境目がはっきりしているか

AIが出した文章をそのままコピーして終わりにすると、次に似た悩みが出たときにまた一から相談し直すことになります。自分の言葉に書き直す一手間が、次に使えるかどうかを分けるのでしょう。

別の場面で型を確かめる

この型は、悩み相談だけでなく、会議前の準備にも使えます。

たとえば、来月の経営会議で新サービスの値上げを提案する予定の役員がいるとします。反対意見が出そうで気が重い。

そこでAIに「値上げに反対する立場で反論してほしい」と頼むと、「既存顧客の離反率をどこまで許容できますか」「値上げ幅を段階的にする案は検討済みですか」といった反論が返ってきます。これを先に洗い出してから会議に臨む、という使い方です。

やっていることは、悩み相談のときと同じ順番。状況を打ち明け、返ってきた反論に自分の言葉で答え、最後に自分なりの切り返しとして整理し直す。ここでも決めるのは、AIではなく提案する本人です。

場面によって、型の使い方を少し変えると効果的でしょう。

一人で抱え込んでいる悩みには型その1を丁寧に行い、会議やプレゼンの準備には型その2を重点的に行って反論を先に洗い出し、アイデアを広げたいときは型その3を後回しにして型その1と2を何度も往復するとよいかもしれません。

なお、AIに状況を伝える際は、取引先名や顧客の個人情報など、外部に出せない情報はぼかして伝えるという基本的な配慮も忘れないようにしたいところです。

型はあっても、決めるのは自分

成人日本人のビジネスパーソンの手が、開いた地図ではなく一つのコンパスを持ち、その針が示す方向を見つめている。実写風、自然光が差し込む室内、机の上には閉じたノートPC。

ここまでの型を「これさえやれば正解にたどり着ける」と捉えてしまうと、話が違ってきます。

AIは地図のように唯一の正解を示すものではなく、コンパスのように方向を示すものだからです。地図は「ここへ行けば正解」と示しますが、コンパスは方向を示すだけで、どこへ歩くかは自分で決めなければなりません。

型はあくまで考えを整理するための手順であって、判断そのものを肩代わりしてくれるものではないのです。

終わりに

状況を打ち明け、打ち返しに答え、自分の言葉で整理し直す。この順番さえ覚えておけば、今夜からでもAIとの壁打ちを試すことができます。特別な準備は要りません。スマートフォンを開いて、今抱えている違和感をそのまま打ち込んでみるところから始められます。

先ほどの社長も、最初から答えを持っていたわけではありませんでした。あったのは、問いの順番だけです。あなたなら、きっと同じようにできるはずです。

ただ、一人でこの型を手探りするよりも、体系立てて学んだほうが、遠回りをせずに自分のものにできる面もあります。問いの立て方や、業種・場面ごとの使い分けについては、私の講義の中でより詳しくお伝えしています。

まずは今夜、誰にも言えなかった違和感を、AIに向かって一つ打ち明けてみてください。順番さえ間違えなければ、AIはきっと、あなたにとって心強い壁打ち相手になることでしょう。


関連コラム